芝山とは(What's Shibayama)

 芝山とは、「芝山細工」 「芝山象嵌」などとも呼ばれるレリーフ状の彫刻と象嵌を特徴とした華やかな装飾技法です。その作品には様々な天然素材を組み合わせた調和の美しさがあり、よく知られた蒔絵や螺鈿とは全く違う面白さを生み出しています。また発祥には諸説が、その繁栄には開国後の日本の歩みが深く関わっています。そのような歴史の謎を紐解く面白さと現在では希少となっていることにもその魅力があるといえるでしょう。


歴史

 芝山が世界に知られたのは19世紀に開催された万国博覧会です。明治時代の日本が誇る工芸技術の水準は、当時のヨーロッパ人を震撼させた高さでした。それ以降、芝山は盛んに輸出されることとなります。繁栄期には多くの名工が浅草、日暮里、根岸近辺に居を構え数々の名品を生み出しました。しかし、その高度な技術も他の明治工芸と同様に、時代とともに技術が散逸してしまい、現在ではごく僅かな職人を残すのみとなっています。  芝山という名前は、安永年間(1772-1781)に下総出身の印籠細工師芝山仙蔵(大野木専蔵)によリ考案され、その一門が代表的な一派をなしたことから付いたといわれています。


技術

 レリーフ状の彫刻と象嵌の技法が芝山最大の特徴です。彫刻には真珠貝や象牙、べっ甲といった天然素材を用います。これらの素材の持ち味を生かし、組み合わせることで独特の華やかさが生まれます。彫刻は背景となる漆塗りの木材や象牙、べっ甲などに象嵌されることにより、落ち着いた調和が生まれます。


製作工程

  • 木地の製作:箱、額などの象嵌する基盤となるものを製作します(木地師、指物師)。場合によっては漆塗り、蒔絵を施します(塗師、蒔絵師)。
  • 裁断:貝・象牙などを下絵に沿って切り抜きます。厚みのある様々な素材を組み合わせる際、それぞれの素材の間に隙間ができないように削ります。この作業を「すり合わせ」 と呼びます(芝山師)。
  • 彫刻:芝山の特徴のひとつであるレリーフ状の彫刻をします(芝山師)。
  • 染色:象牙や鹿の角など、着色が必要な素材を染めます。
  • 象嵌:木地に象嵌する模様どおりの溝を彫ります。塗り物などに傷一つつけず象嵌する作業は、細心の注意が必要で腕の見せ所でもあります。そして木地に彫刻した模様を接着して完成です。溝に埋め込むことで模様と木地が一体化し、ただ貼りつけるだけとは違う落ち着きが生まれます(彫り込み師)。

※( )内は分業化されていたときの職人を表す。現在は漆から完成までの工程をひとりで行う場合が多い。